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東京地方裁判所 平成9年(ワ)1512号 判決

原告

株式会社細川洋行

右代表者代表取締役

細川武夫

右訴訟代理人弁護士

吉武賢次

神谷巖

右補佐人弁理士

米山克己

被告

株式会社フジシール

右代表者代表取締役

藤尾正明

右訴訟代理人弁護士

小松陽一郎

池下利男

右訴訟復代理人弁護士

村田秀人

右補佐人弁理士

藤本昇

石田耕治

大内信雄

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

(主位的請求)

一  被告は、別紙一「第一物件目録」記載の液体充填容器を、生産し、譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。

二  被告は、その占有する前項記載の液体充填容器を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、二〇〇〇万円及びこれに対する平成九年二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(予備的請求)

一  被告は、別紙二「第二物件目録」記載の取出具、容器本体及びキャップを、生産し、譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。

二  被告は、その占有する前項記載の取出具、容器本体及びキャップを廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、二〇〇〇万円及びこれに対する平成九年二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告に対し、被告による液体充填容器ないしはその部品の製造販売行為が原告の実用新案権を侵害すると主張して、侵害行為の差止め及び侵害物件の廃棄並びに損害賠償を求めている事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、次の実用新案権(以下、これを「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。また、本件考案に係る明細書(甲二)を「本件明細書」という。)の権利者である。

(一) 考案の名称 液体充填容器

(二) 出願年月日 昭和六〇年二月一四日

(三) 出願公告年月日 平成二年六月八日

(四) 登録年月日 平成四年七月二二日

(五) 登録番号 第一九一八七六三号

2  本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は次のとおりである。

「フレキシブルフイルムで作つた上方開口の袋状容器本体と、口部および導管部を有し導管部が袋状容器本体の内部空間に延在するように袋状容器本体の開口部に固着される取出装置とを有する液体充填容器において、上記取出装置の導管部の袋状容器本体の開口封着部分に近い部位に開口を設けたことを特徴とする液体充填容器。」

3  右の実用新案登録請求の範囲の記載は、次のAないしDの構成要件に分説できる(以下、それぞれの構成要件を「構成要件A」などという。)。

A フレキシブルフィルムで作った上方開口の袋状容器本体と、

B 口部及び導管部を有し導管部が袋状容器本体の内部空間に延在するように袋状容器本体の開口部に固着される取出装置とを有する液体充填容器において、

C 上記取出装置の導管部の袋状容器本体の開口封着部分に近い部位に開口を設けた

D ことを特徴とする液体充填容器

4  被告が製造販売する取出具、容器本体及びキャップの構成は、別紙二「第二物件目録」記載のとおりである(以下、それぞれを「本件取出具」、「本件容器本体」及び「本件キャップ」という。)。そして、これらを組み合わせて成る液体充填容器(以下「被告製品」という。)の構成は、別紙一「第一物件目録」記載のとおりである。なお、被告が本件取出具、本件容器本体及び本件キャップのそれぞれを製造販売していることは、当事者間に争いがないが、被告は、被告製品自体の製造販売については否認している。

5  被告製品の構成を分説すると次のaないしdのとおりとなる(以下、それぞれの構成を「構成a」などという。)。

a 容器本体は、別紙一「第一物件目録」の第6図に示すように、ポリエステルフィルム、アルミホイール、延伸ナイロンフィルム及びポリエチレンフィルムから成るプラスチックフィルムを重合してシールした、両側にガセット部12を有する、上面13が開口型の袋状容器本体10から成る。

b 取出具本体1は、口部2を有する外筒3と内筒4とから成り、かつ取出具本体1の容器本体への装着時に前記内筒4が容器本体内のほぼ中央部まで延出する長さに形成され、しかも内筒4は、同目録の第2図及び第3図に示すように外筒3から内方にその一部が延出して一体成形された四条の縦リブ5、5、6、6によって支持されている。8は外筒3の下端部に形成された容器本体の開口封着部に封止される封止部位で、正面と背面に三条の線状体9が突設されて成る。取出具本体1は、同目録の第7図(イ)に示すように容器本体10に装着されて使用されるものである。すなわち、容器本体10の開口封着部11のほぼ中央に取出具本体1の封止部位8が位置決めされるようにセットされた状態で、容器本体10の開口封着部11を熱シールすると、同図(ロ)ないし(二)に示すように容器本体10の開口封着部11と封止部位8が熱封着されるのである。

c 縦リブ5、5、6、6間の内筒4と外筒3との間には、同目録の第2図ないし第5図に示すように間隙部7が形成されている。この状態においては、容器本体10内の内筒4の周側面には一切開口が存在せず、開口封着部11内の内筒4と外筒3の間に間隙部7が存在するのみである。

d 液体充填容器である。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

1  被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか。

(一) 原告の主張

(1) 被告製品の構成aないしdは、次のとおり、本件考案の構成要件AないしDを充足する。

ア 袋状容器本体10の、ポリエステルフィルム、アルミホイール、延伸ナイロンフィルム及びポリエチレンフィルムから成るプラスチックフィルムは、フレキシブルであり、フィルム状である。そして、上面13が開口となっているから、構成aは構成要件Aを充足する。

イ 被告製品においては、導管部が内筒と外筒の二重管になっているが、本件考案には導管部が二重管であってはならないことを示唆するような記載はない。この導管部は、次の(2)記載の効果を奏することができればよく、それ以上にその構造を限定する理由はないのであって、一重でも二重でも差し支えない。したがって、構成bは構成要件Bを充足する。

ウ 本件考案の開口は、袋状容器本体の開口封着部分に近い部位にあればよく、内筒の周側面にある必要はない。そして、この開口は、次の(2)記載の効果を奏することができればよく、それ以上にその構造を限定する理由はないのであるから、導管部分に孔を開けてもよいし、二重管の隙間であってもよい。したがって、構成cは構成要件Cを充足する。

エ 構成dは構成要件Dを充足する。

(2) 本件考案は、液体内容物の充填度を上げ得るとともに、液体内容物を取り出す際に容器内の残存量をなくすことができるという効果を奏するものであり、被告製品も、右と同一の効果を奏することができる。

被告は、被告製品は本件考案にない作用効果を奏すると主張するが、被告製品が本件考案の構成要件を充足し、その作用効果を奏する以上、右の点は本件実用新案権侵害を否定する理由とならない。

(3) 被告は、被告製品の間隙部が容器本体のフレキシブル性により閉じられないことを理由に、被告製品が本件考案の技術的範囲に含まれないと主張している。

しかし、本件明細書には、「袋状容器本体1のフレキシブル性により導管部10に設けた開口12が袋状容器本体の壁部により閉じられ」と述べられているだけであり、「閉じられた」とは記載されていない。この記載は、開口が閉じられる方向に袋状容器本体が取出具に寄っていく、すなわち閉じられる傾向にあるということを表現しているのみであり、そのために導管部下端から内容物が吸い上げられる方向にあるということを説明しているにすぎない。本件考案はスポーツドリンクやジュースを充填する容器に関するものであり、「閉じられ」とは、液体分子を一滴も通さないという意味ではなく、実用的に液体が吸引できる程度に閉じられていればよいのであって、被告が主張するように完全に閉じることは考慮されていない。

そして、被告製品において、口部から吸引すると袋状容器本体が取出具の導管部を取り囲み、間隙部に寄ってきてこれが閉じられる傾向にあり、取出具を通じた吸引が効果的に行われることは、原告による実験の結果(甲八ないし一〇、一五、一六参照)から明らかであるから、被告製品の間隙部は構成要件Cの開口に該当する。

(4) 本件考案は進歩性を十分に有しているから、これが無効であることによる権利濫用又は実施例限定をいう被告の主張も理由がない。

(二) 被告の主張

(1) 本件考案の構成要件Aの「フレキシブルフィルム」とは、取出装置をストローとして使用する場合に、口部に口を付けて吸い込むと、導管部に設けた開口が袋状容器本体の壁部により閉じることができるという、本件考案の目的を達するという関係でのフレキシブル性を持つことを意味するものである。この点は、本件明細書の考案の詳細な説明中に「袋状容器本体のフレキシブル性により開口部を閉じ」などの記載があること、本件考案の出願経過において、ストローとして利用する場合には袋状容器本体のフレキシブル性により開口部を閉じるようにしたものである点が強調されていることから明らかである。したがって、導管部に設けた開口が袋状容器本体の壁部により閉じることができない場合は、本件考案にいう「フレキシブルフィルム」には該当しない。

これに対し、被告製品では、袋状容器本体のフレキシブル性により導管部に設けられた間隙が容器本体の壁部により閉じられる構造になっていないから、構成要件Aを充足しない。

(2) 本件明細書の考案の詳細な説明中には、長筒状の一重管の開示しかなく、それ以外のより複雑な構造のものは何ら示唆されていない。したがって、本件考案の構成要件Bの「口部及び導管部を有する取出装置」とは、口部と一体に連結される単純な一重管を意味するものである。

これに対し、被告製品の取出具は内筒と外筒から成る二重管であるから、構成要件Bを欠いている。

(3) 本件考案の構成要件Cの「開口」とは、取出装置をストローとして使用する場合に袋状容器本体のフレキシブル性により閉じられ、内容物が導管部の下端から吸い上げられるという作用を有する構造のものであり、導管部のうち袋状容器本体の開口封着部に近い部位に設けられたことを要件とする。この点については、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載だけでは開口の構造が一見して明白であるとはいえないが、本件明細書の考案の詳細な説明中の開口の構造及び作用効果に関する記載や、本件考案の出願経過、出願当時の公知技術に照らすと、導管部に設けられた開口が袋状容器本体の壁部により閉じることができないような場合には、本件考案の構成要件Cの「開口」に当たらないのである。

これに対し、被告製品は二重管の内筒と外筒の間に間隙を設けたものであり、かつこの間隙部は容器本体の開口封着部自体に形成されているのであって、本件考案とは構成が異なる。そして、被告製品をストローとして利用する場合、この間隙は、内筒と外筒の全周に形成されているため、容器本体のフレキシブルフィルムの壁部によってすべて閉じられるということがないから(乙八、九、一七ないし二一参照)、被告製品には「開口」がなく、構成要件Cを欠いている。

(4) ストローとして利用される場合、本件考案では開口が閉じられるので液体を導管部の下端からしか吸い上げることができないが、被告製品では、内筒の下端のみならず内筒と外筒の間隙部からも吸い上げることができる。また、注ぎ口として利用する場合、本件考案では最後の一滴まで取り出すことはできないが、被告製品では内筒と外筒の間隙部が容器本体の開口封着部に形成されているので、最後の一滴まで確実に液体を取り出すことができる。さらに、内容物を充填する場合、本件考案では充填飲料と排気される空気とが容器内で合流し逆流することがあるが、被告製品では、内筒から充填することができるので、充填ルートと排気ルートが異なり逆流することもなく、効率よくかつ迅速に充填ができる。

右のとおり、本件考案と被告製品とでは作用効果に顕著な相違がある。

(5) 公知技術からすれば、本件考案の構成要件Aは公知であり、構成要件B又はCの構造のいずれかの構造を持ったものも公知例として多数存在している。したがって、本件考案には進歩性がなく本件実用新案権は無効原因を有するから、本件請求は権利の濫用として許されず、又は、本件考案の技術的範囲は実施例に限定されるべきである。

(6) したがって、被告製品は本件考案の技術的範囲に属さない。

2  被告の行為が、本件実用新案権の直接侵害又は間接侵害となるか。

(一) 原告の主張

(1) 被告は、本件考案の技術的範囲に属する被告製品を製造販売しているから、本件実用新案権を侵害している。

(2) 被告が本件取出具、本件容器本体及び本件キャップを別々のものとして販売し、第三者がこれらを組み立てて被告製品としているとしても、被告は、これらが組み合わされて被告製品として製作されるのを目的として販売しているのであるから、被告の行為は、被告製品の製造という本件実用新案権侵害行為の一部を実行していることになるので、共同不法行為者として、右第三者とともに差止め及び損害賠償請求を受けるべき立場にある。

(3) 被告は、本件取出具、本件容器本体及び本件キャップを、被告製品の製造にのみ使用するものとして製造販売しているから、その行為は、実用新案法二八条により、本件実用新案権を侵害するとみなされる。

(二) 被告の主張

(1) 被告は、本件取出具、本件容器本体及び本件キャップを別々のものとして製造販売しているだけであり、被告製品自体の製造又は販売をしていない。

(2) 仮に被告の行為が共同不法行為に当たるとしても、これを理由とする差止請求は認められない。損害賠償請求に関しては、共同不法行為の成立要件、因果関係等につき原告の積極的な主張立証が必要である。

(3) 本件取出具、本件容器本体及び本件キャップは、被告製品以外の用途に使用でき(例えば、本件容器本体及び本件キャップは、本件考案の取出具と異なる吸引管に使用したり、普通のストロー付き袋に使用したりできる。また、本件取出具は、本件考案のような液体の充填容器に限らず、味噌や練り歯磨きの容器にも使用できる。)、本件考案に係る液体充填容器のみに使用するものではないから、被告の行為は本件考案の間接侵害に該当しない。

3  原告の損害の額

(一) 原告の主張

被告は、平成八年三月ころから、被告製品又は本件取出具、本件容器本体及び本件キャップを製造販売した。その金額は少なくとも一億円に及び、被告がこれにより得た利益は二〇〇〇万円に達するから、原告はこれと同額の損害を受けた。

よって、原告は被告に対し、二〇〇〇万円及びこれに対する平成九年二月二二日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による民法所定の遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告の主張

すべて争う。

第三  争点に対する判断

一  争点1(被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか)について

1  被告製品の構成cのうちの「間隙部7」が、本件考案の構成要件Cの「開口」に該当するかどうかについて検討する。

2  証拠(甲二、乙一の1、二、三の6、7)によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、次の記述がある(以下の頁数及び行数は、本件考案に係る実用新案公報(甲二)のものをいう。)。

(1) 従来技術及びその問題点(1欄14行目ないし2欄24行目)

「フレキシブルフイルムを素材として上方開口の袋状容器としたものは知られているが、袋状容器においては開口部を熱封着して内容物を封入するため、容器本体の壁部に設けた開口部を取出口とし、この開口部をシール片で封着し、液体飲料等の内容物を取り出すには、シール片を容器本体から剥離し、開口部に設けたシールフイルムをストローで破り、ストローを開口部を通して内部へ挿入する作業を必要とする。上記様式の液体充填容器では、別にストローを付設する必要があり、ストローが手元にない場合には飲用しにくく、容器本体の開口部をナイフ等を用いずに開封するには相当の労力を必要とする。」

「そこでフレキシブルフイルムで作った上方開口の袋状容器本体と、口部および導管部を有し導管部が袋状容器本体の内部空間に延在するように袋状容器本体の開口部に固着される取出装置とを有する液体充填容器が開発された。」、「しかし上記形式の液体充填容器では、上述した欠点は解消し得たが、内容物の充填を取出装置の口部を介して行なうため、内容物充填時に、容器内部に残存する空気が、内部空間の上部に溜まり、容器としての充填度を低下させてしまうことがある。また内容物を取出装置を介してコツプ等の他の容器へ移しかえる際に、取出装置に導管部が設けられているので充填された内容物の一部が容器内に残存してしまい、最後の一滴まで取り出すことができず、不経済であるという難点がある。」

(2) 本件考案の目的(2欄25行目ないし3欄5行目)

「本考案は上記した点に鑑みてなされたもので、内容物充填時の残存空気量をなくし充填度を上げるとともに、内容物取出時に内容物が容器内に残らないようにした液体充填容器を提供することを目的とする。」

(3) 本件考案の概要(3欄6ないし12行目)

「取出装置の口部に連らなる導管部の袋状容器本体の開口封着部分に近い部位に開口を設け、ストローとして利用する場合には袋状容器本体のフレキシブル性により開口部を閉じ、内容物を移しかえる際には、開口部を取入口として用いるようにしたものである。」

(4) 本件考案の実施例の作用(4欄6ないし13行目)

「内容物取出装置7をストローとして利用する場合には、キヤツプ13を口部9より取外し、口部9に口を付けて吸い込むと、袋状容器本体1のフレキシブル性により導管部10に設けた開口12が袋状容器本体1の壁部により閉じられ、導管部10の下端より内容物が吸い上げられることになる。」

(5) 本件考案の効果(4欄19ないし23行目)

「本考案によれば、液体内容物の充填度を上げ得るとともに、液体内容物を取出す際に、容器内に液体内容物の残存量をなくすことができるという効果を奏する。」

(二)  本件考案の出願経過は次のとおりである。

(1) 本件考案に係る実用新案登録出願ついては、いったん拒絶理由通知がされた後、原告が意見書で述べた主張が入れられて、出願公告されたものである。

右の意見書において、原告は、拒絶の理由とされた先行技術と区別するため、本件考案においては「ストローとして利用する場合には袋状容器本体のフレキシブル性により開口部を閉じ、内容物を移しかえる際には、開口部を取入口として用いるようにしたものである」、先行技術との「構成上の相違に基づいて、導管部に設けた開口部を容器本体で閉じることでストローとして機能し、かつ、液体内容物を取出す際に、容器内に液体内容物の残存量をなくすことができるという引用例のものでは期待し得ない効果を奏する」旨を述べた。

(2) 出願公告の後、第三者から異議申立てがされたのに対し、原告は、異議答弁書において、本件考案はその構成要件に基づいて「開口封着部に近い部位に設けた開口を閉じることで導管部をストローとして作用するとともに、容器を手で持って傾けることにより、導管部を注ぎ口として利用して内部に充填された内容物を最後の一滴まで取り出すことができるという作用を奏するのである」と述べ、公知技術を組み合わせても当業者が極めて容易に想到し得るものではない旨の主張をした。

(3) 特許庁の審査官は、原告の主張を認め、本件考案においては実用新案登録請求の範囲に記載された構成を採ることによって「内容物取出装置をストローとして利用する場合には口部9に口を付けて吸い込むと袋状容器本体のフレキシブル性により導管部10に設けた開口12が袋状容器本体の壁部により閉じられ導管部10の下端より内容物が吸い上げられ」るという作用効果を奏すると認められることを理由に、異議申立人の主張を採用しないものと判断した。

3 右認定の事実によれば、本件考案の構成要件Cの「開口」は、(1)内容物を充填するときに、「開口」から容器内部に存在する空気を抜いて、容器としての充填度を上げるとともに、(2)内容物を取出装置を介してコップ等の他の容器に移しかえる際に、「開口」から最後の一滴まで内容物を取り出すことができるように設けられたものであるが、他方、(3)取出装置をストローとして利用する場合には、容器本体のフレキシブルフィルムによって閉じられるという構成のものであることを要すると解釈するのが相当である。すなわち、一般に、ストローは、その途中に「開口」が存在すると、そこから空気を吸入してしまい、下端部から液体を吸い上げることができなくなるので、ストローとしての機能を果たすことができないものである。そこで、本件考案においては、右の(1)及び(2)の作用効果を奏するためには「開口」を設ける必要があるが、(3)のとおり取出装置をストローとして利用する場合にはこれが閉じられなければならないと認識されていたものということができる。このことは、本件考案の出願経過において、原告が、ストローとして利用する場合に「開口」が閉じられることが先行技術との相違点である旨を述べていることからも明らかであるといえる。

4  そこで、被告製品がストローとして利用される場合に、その間隙部7が容器本体10によって閉じられると認めることができるかについて検討する。

原告は、被告製品の間隙部7が閉じられることを裏付ける証拠として実験結果を提出している(甲八ないし一〇、一五、一六)。しかし、これらは、原告の製造販売する製品(なお、これが本件考案の実施品であると認めるに足りる証拠はない。)と被告製品とが同様の挙動を示しているにとどまり、被告製品の間隙部7が閉じているか自体は不明なもの(甲八ないし一〇)、又は、人間が吸引する場合とは異なる状況の下での実験であり、しかも、ある程度以上の充填量の場合には外管からの流れも認められ、間隙部7が開いていることを示すもの(甲一五、一六)であり、これらの証拠を総合しても、ストローとして利用される場合に被告製品の間隙部が閉じられていると認めることはできない。かえって、被告が行った実験の結果(乙八、九、一七ないし二一)からは、被告製品の間隙部7が閉じないことがうかがわれる。

さらに、原告は、訴状においては、本件考案は、「内容物取出装置をストローとして利用する場合には、口部に口を付けて吸い込むと、袋状容器本体のフレキシブル性により導管部に設けた開口が袋状容器本体の壁部により閉じられ、導管部の下端より内容物が吸い上げられ」るという作用効果を有する、「被告製品も、口部に口を付けて吸い込むと、開口がフレキシブルな袋状容器本体によって閉じられ、内容物を吸い上げることができ」るという本件考案の作用効果を奏することができる旨を主張していたのが、その後これを改め、「本件考案では、『閉じられ』と述べているのみであって、『閉じられた』とは記載されていない。開口が閉じられる方向に袋状容器本体が取出し具に寄っていくことを表現しているのみである」、「開口(被告製品においては、外管と内管の隙間)が閉じられる傾向にある」旨の主張をするようになっているが(平成一一年一二月一四日付け原告第一九準備書面参照)、原告が右のとおりに主張を変更したことに照らすと、ストローとして利用された場合に被告製品の間隙部7が閉じないことについては、原告自身、これを認めているものということもできる。なお、前記認定のとおり、本件明細書の記載及び本件考案の出願経過に照らせば、本件考案における「開口」は、ストローとして利用される場合に袋状容器本体によって閉じられることが要件になっていると解すべきであるから、右の変更後の原告の主張については、これを採用することはできない。

5  したがって、被告製品の間隙部7は「開口」に該当しないから、被告製品は、本件考案の構成要件Cを充足せず、その技術的範囲に属さない。

二  右によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はすべて理由がないので、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官三村量一 裁判官長谷川浩二 裁判官中吉徹郎)

別紙一、二〈省略〉

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